夏休みももうすぐ終ってしまうというこの時期。 生徒会の生徒は、宿題以上に嬉しくない、夏休みの課題を押し付けられていた。 夏休みも終わりの時期になると、帰省していた寮の生徒が帰ってきて、寮はだんだんといつもの様子をとり戻していく。 そうなると、通常学校があっている時、毎日している見回りをしないといけないわけだが… いつもなら生徒が交代で行う見回り。 夏休みの期間はどうしても、いつ誰が帰ってきているかを把握できないため、生徒会が変わりにしないといけないことになっている。 そして、今回も。 「…眠い…」 「弥吉先輩、お願いですから、見回り始まる前に寝るなんてこと、しないでくださいよ」 「…はい…」 今日の見回りは弥吉・小山ペア。 だが、昨日まで遊びまくって、夜更かしして…朝からでてこさせられている蓮は、ぐったりとしていた。 そのせいで、朝から和紗に怒られてばかりだ。 「にしても…すごい雨だなぁ…」 「そうですねぇ、朝は雲ひとつなかったっていうのに…」 今の天気は大雨…というよりも、嵐と言ってしまう方があっているのかもしれないと思うほど、大荒れだった。 こんな日に、誰か抜け出していくなんて、どうやっても考えられなかったが… 仕事は仕事。 「さて、そろそろ始めますか?」 「…そうだな」 そう言うと二人は、今日自分たちの泊まる部屋を後にして、薄暗い電気しかない廊下を進む。 一部屋一部屋真面目に見回りを終え、最後の部屋のドアを閉めた。 「やっと終ったぁ~!」 「さて、それじゃぁ部屋に戻りますか、先輩、眠くてしょうがないんでしょ?」 「おう!」 そう元気よく返事をした蓮を見て、いつもは緩むことのない和紗の表情が、少しだけ微笑に変わった。 そして、すぐに自分たちの部屋へ向かって、歩き始めた。 そして、最後の階段の踊り場に足をついた、その時――― 「…っつ!」 外が一瞬輝き、その後すぐに大きな雷の音。 蓮は声をあげることはしなかったが、壁にしがみついてしまっった。 そんな蓮に気付かずに、雷をなんとも思わないのか、和紗はスタスタと先に歩いていってしまう。 「…っ…か、和…」 「?」 「…ぁ、あの…」 「…どうしたんですか?」 やっとのことで出した微かな声は和紗に届き、振り向かせることができた。 振り向いてくれた和紗に、蓮は震える手で手招きをする。 和紗はよく分からずに、ゆっくりと蓮の方へ近づこうとした。 その時、再度外が一瞬輝き、今度はさっきよりも早く雷の音がし…停電してしまった。 「あ…停電しちゃいましたね」 「…っ…ぅう…」 「…先輩?」 二度目の雷に、蓮は座り込んでしまい、声を出すこともできなくなっていた。 その様子を見て、ようやく雷のせいなんだと気付くと、和紗は蓮に近づく。 「もしかして、雷怖いんですか?」 「…ぅ、うん…」 「仕方ないですね…」 そういうと、和紗は蓮の腕をとり、無理矢理立たせる。 その腕を自分の方に引き、自分より少しだけ小さい蓮の体を抱きしめる。 蓮のふわふわの髪に自分の顔を寄せ、包み込むように… 「…ぇ、えっ…!ちょ、和!?」 「怖いんでしょう?電気つくまで、こうしててあげますから…」 「い、いいよ、そこまでしなくっても…それに、誰かに見られちゃうかも…」 「暗くて俺たちだってことは分かりませんよ…」 「で、でも…」 抱きしめられたことに焦りを隠せない蓮が愛おしくて、更に強く抱きしめる。 それで観念したのか、離れようと一生懸命腕に加えていた力を弱める蓮。 少し、静寂が続き、和紗が口を開く。 「先輩は、温かいですよね…」 「今は夏だぞ…暑いの間違いじゃないのか…?」 「いや、温かいですよ…体温だけじゃなくて、心も、ね…」 「…っな、何言って…!」 流石に恥ずかしくなって、蓮は和紗を突き飛ばそうとしたが… どうしても体格差に勝てず、少し力が緩む程度に体が離れる。 「俺がこんな恥ずかしいこと言えるのも、あなたにだけなんですよ…自分でも驚いてる」 「なっ…」 「俺のになってとは言わない…けど、俺の近くに居る間は、誰のにもならないで…」 「そ、そんな…こと…」 いきなりの告白のような言葉に混乱してしまう蓮。 和紗の言葉や表情に、偽りの色が見えない分、どうしていいのか分からなくなる。 少しだけ、沈黙があり… 「…俺は…」 その時、ふっと周囲が明るくなり、停電から回復した。 そして蓮はふと、抱き合っていることを人に見られるかもしれないことを思い出し、和紗の腕を振り払った。 「…先輩」 和紗も、それ以上近づこうとはせず、蓮の言葉を待った。 すると、蓮がいきなり階段を駆け下り始める。 一番下の段でピタリと足をとめ、和紗の方に振り返る。 「俺は…俺のもんだから!…まだ…」 「…はい」 振り向いた蓮の顔は、少し赤みをおびていた。 和紗の返事を聞くと、蓮は自分の部屋へと駆け込んでいった。 しかしその部屋、今日は和紗の部屋でもあるということを、蓮はすっかり忘れていたのであった―――。 |