長い夏休みも後半を迎える一歩手前。 最後の思い出を作ってあげようという神様の思し召しなのか悪戯なのか、最高に天気が良く、最高に暑かった。 最近、温暖化がどうのこうのとか言っていたが、これを機に色々と心掛けようかな?と考えていた矢先。 隣に座って勉強しているはずの隼人は、机に突っ伏していた。 「コラッ!ハヤ、ちゃんと宿題しないとダメでしょ!」 暑さでダウンしていた隼人の頭を先程まで仰いでいた団扇で軽く叩いた。 「う"ぅ〜……蓮先輩。そう言うんだったら、クーラーつけましょうよー。ここは僕の部屋ですよー。あと、ハヤというあだ名はやめてください〜」 「いいじゃん、犬みたいで可愛いでしょ?……それもそうだね、こんなに暑いんだし…」 隼人は「可愛くないです」と言いながらも目をうるうるさせながら蓮を見つめた。 一回蓮はリモコンのボタンを押そうとした。 だがその指を止め、クーラーのリモコンを自分が持ってきた鞄の中に隠した。 そして何事も無かったかのように隼人の目の前にキンキンに冷えた麦茶を注いだ。 「つけてくれないんですか?」 「宿題もろくにしていない人には、リモコンを渡しません!クーラーをつけません!!」 「いいじゃないですか!集中力をつけるためには必要なんですよ〜…」 その後も、グチグチと文句や妬みを言うが蓮は無視していた。 暫くして静かになったのを見計らって先程から少し気になっていた事を聞いた。 「そういえば弟君……拓人君だっけ?いないの?」 「…………気になるんですか」 「随分口調が冷たくなるね…ちょっと聞きたかっただけだよ」 今日は8月31日。 明日は2学期の始業式が行われる日。 そんな日は大体の教科が夏休みの宿題を提出しろ!と先生達が口を酸っぱくして言う。 しかし蓮からしてみれば、一年に一回しかない自分の誕生日。 だから隼人の家に呼んでくれたのも、何か祝ってくれるのかと期待したが、全くもって無かった。 久々に会った時もいつもと変わらず、「おはよーございまーす」の挨拶だけだった。 きっと二人っきりになったら!と負けずに期待したが、数分後には脆くも崩れ去った。 「大丈夫ですよ、まだ先輩には手を出しませんから。それより分からないトコがあるんですが」 「い、今サラッっとすごい事言わなかった?」 「そうですか?それより教えていただけませんか?」 「ん、どこを?」 すると隼人の人差し指が蓮の唇にそっと触れた。 それとほぼ同時に隼人はクスッと笑った。 そして隼人の顔がスッと近づいてきた時に、蓮はギュッと力いっぱい目を瞑った。 どんどん近づいてくるのが何となくだが分かった。 もう1cmくらいで唇につきそうな距離まで顔が近づいたのが吐息で分かった。 だが、その後全く触れる感覚が無かった。 どうしたのか、目をそっと開けてみると、近くにある隼人の目と合った。 「先輩の事ですよ。とりあえず、誕生日おめでとうございます。」 囁き声とともに、唇に微かに暖かいモノが触れたのだった。 その後も甘い口付けが何回も落ちてきたのだった―――。 |