.+* 君しか見えない *+.








まだこれは、僕が彼に近づく前の話。




合うはずの無い目。

その目が僕の目と合いそうで恐かった。

どうして恐いって思うのかは分からないけど、目が合って欲しくないと思ってしまう。

これは一体何なのだろう……?





授業が終わった後、窓側で友人と二人で何気ない会話をしていた。
昨日あったテレビの話から最近あったテストについて話が変わった時だった。


「そういえば暁、知ってるか?同じ学年の小山和紗っていうヤツ」


反射的に目を大きく開いて驚いてしまった。
最初、彼の名前が出た事が聞き間違いだと思った。
だって僕が今一番、気になっている人の名前だからだ。
もちろん、親友にもまだ話していない、この気になる気持ちがどういうモノなのかとか…。

僕は動揺を気づかれないように、平然を装いながら「その人がどうかしたの?」と聞いた。

友人の話では、また高成績で学年トップだったという話だった。
しかもまた、2位との差が激しいらしい………。


「すっげーよな、アイツ」


自分の事じゃないけど、やっぱり嬉しい。
”好きな人”を褒められるってのは。
自分で気づかないうちに、つい口元を緩くして微笑んでいた。



ん……………好きな人?



「あれ?」


思わず自分の口から投げかけの言葉が出てしまったと思った。
だがそれは僕の口から出た言葉では無く、隣にいる友人からの言葉であった。

友人の目線が窓の外を向いていた。
その様子が気になり、友人の目線の先を見てみると先程話していた『彼』がいた。
一人で渡り廊下を通って、隣の職員棟に行こうとしていた。


「噂をすれば何ちゃらってね」
「うん」
「ホント、世の中にはすごいヤツがいるってものだよなー」
「そうだね」


その後、何を言われても僕は素っ気無い返事しかしなかった。
今の僕は友人との会話よりも、自分の瞳に映っている彼に夢中だった。



キレイな黒髪。きっとサラサラしていて触り心地が良いんだろうなー。

キリっとした目。きっと笑ったら誰よりも優しい目になるんだろうなー。

スラってしている身体。きっと私服は何を着てもカッコ良いんだろうなー。



笑顔をそう見せないって事でも有名だが、普段の顔を見ていても飽きない。
寧ろずっと見ていたい。


どうしたんだろう…僕。何でこんなにドキドキしているんだろう?


そう思うと自然と軽い溜め息をついていた。
彼を見ていると、胸の中が暖かくなる。


どんな嫌な事があっても彼と一緒に居れば……。


彼の隣にいれる人が羨ましいな〜と思いながら、澄み切った空を見上げて暁はもう一度溜め息をついた。




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