「拓人、お前目の下にクマが出来てるぞ」 その何気ない一言から始まった。 日曜の朝、先に朝食を食べていた隼人は先程起きてきたばかりの拓人の様子をマジマジと見た。 あきらかにおかしい。 足取りが重たそうで、フラフラと歩いており、途中壁にぶつかりそうになったりといつもの拓人からは考えられない様子だった。 昨日の朝は用事があった為、夕方過ぎにしか拓人にしか会っていないが、その時はボーっとする時間が長く少し違和感を感じた。 だがよくよく考えてみれば、拓人がボーっとしている事自体が変だ。 本人には多少失礼かもしれんが……… そして今日の朝、決定的な証拠を発見した。 それが拓人の目の下にある黒いモノ。 「…やっぱりクマ出来ちゃったか。最近中々寝付けなくてさ…いいよな〜隼人はどこでも寝れて」 「お前それ、嫌味か?」 「……そんなわけ無いよ〜、いい事じゃないか」 隼人は、その割りには何だか悪意が感じるんだが、と不服な様子だった。 そして何かを思いついたのか、ニヤリと口の端を一瞬上げて笑った。 「よし!それじゃあ僕が寝かせてやる」 「はぁ?!」 「何だよ、その”はぁ?!”ってのは。どうせろくに寝てないから今からでもいけるだろ」 「だってまだ朝だし、それに隼人と一緒に…」 「何だ?僕の言う事が聞けないってのか?双子だが僕は兄だぞ」 確かにそうだが…、といつの間にか言い包まれ拓人は隼人を引っ張りながら一緒に拓人の部屋に向かった。 一人はルンルンと軽快良く、もう一人は重たい足を一生懸命動かしながら……… そして二人は部屋に入り、隼人は人差し指でベッドを指した。 「んじゃ、いつも通り寝ろ」 「なんで命令口調なんだよ」 と言い応えをしたものの隼人は渋々ベッドの中に入っていった。 一方拓人はというと、 「ちょ、何でお前まで入ってくるんだよ!」 「え?やっぱり寝かせるって言ったら、隣で寝て絵本を読んだり、子守唄を歌ったり、羊を数えたりするだろ?」 「僕はもう高校一年生!そんな幼稚園児にするような事をするなー」 拓人はベッドの隅に行き、隼人と距離をとった。 そして「もう知らない!」とそっぽを向き、隼人に背を向けて寝た。 瞼をギュっと力の限り閉じて。 すると、背中をトントンと優しく叩く感触があった。 まるで泣きつかない赤ちゃんを慰めるかのようにずっと……。 それがあまりに心地良かった。 あぁ自分の近くに隼人がいる。 その安心感からか、段々と力を入れなくても、瞼が自然と閉じていった。 あんなに寝れなかったのがこうも簡単に眠れるのか、という悔しさがあった。 だがそれ以外に、隼人がしてくれたという嬉しさという複雑な心境のまま拓人は深い眠りへと落ちていった。 暫くして、スースーとリズムの良い寝息を確認し、隼人も背中を叩くのを止めた。 「本当は隼人と一緒に寝て、同じ夢を見たかったから何て言ったら怒るかな?…さて、僕も二度寝でもするかな」 一緒の夢を見よう……僕とお前の永遠という夢を。 隼人は最後の言葉だけをボソッと言い、拓人の後を追った。 もちろん永遠という夢は無理だが、その日拓人と隼人は夕方まで熟睡するのでした。 その日の夕方、 「そういえばお前、朝も寝たのによくあの長時間一緒に寝れたな」 「拓人の隣ならいつでも寝れるからね」 それは僕と居ると安心するっていう事?それとも僕は恋愛対象には入らないって事? その答えが分かるのは後どのくらいかかるのだろうか…と拓人はため息をついた。 絶対にお前の口から、僕の事が好きだと言わせてやる。 そう誓った日であった。 |