最近、先生すっごい忙しくて、なかなか2人になる機会がなくって…
それに、先生は大人だから、あんまり愛情表現を言葉でしてくれない…
僕、なんだか最近不安だよ…

そんな時、たまたま図書室で自習があって、普段は読まない本を開いてみた。
気付いたら読みいっていて、自習の時間が終っちゃってて…
なんだかどうしても最後まで読みたくて、しかたないから、借りてみることにした。





* これ言って? *






「せ〜んせっ!」
「おや、葉月くん…なんだか久しぶりですね」
「先生最近出張多すぎ〜!僕、ちーちゃんもこーちゃんも遊んでくれなくって、すっごい寂しかったんだよ!」
「それはそれは…本当に申し訳ないことを…」

先生が本当に顔を歪ませて、申し訳ないって顔をしたから、僕、もうどうでもいいやってなって、先生に向かって、想いっきり笑顔を向けてあげる。
そして、近付いて、先生の座っている隣のイスに座って、一冊の本を目の前に突き出す。

「先生、本当に悪いと思ってる?」
「思ってますよ?」
「それなら、これ読んで!」
「え?」
「ただ読むだけじゃダメだよ〜、ちゃんと音読して」
「音読…ですか…」

先生は僕から本を受け取ると、少し目を細める。

「これって、思いっきり恋愛小説じゃないですか…」
「そう!なんか適当に手にとって読んでみたら、結構おもしろかったんだ〜」
「それで、何故音読させようと思ったんですか?」
「ん〜、なんとなく?」

先生は少し困った顔になって、一度小さく溜息をついた。
僕は聞えないふりをして、ニコニコと笑っている。

「これ、今じゃないとダメですか?」
「え?別に、後でもいいよ?」
「じゃぁ…今夜、僕の部屋でってことで…」
「うん、分かった!」

そう言って、まだ昼休み中の僕は、とりあえず教室に戻ることにした。





* * *






夕食も食べ終わって、後は明日も休みだし、夜更かしでもするかな〜なんて思いながら、約束だった先生の部屋へと向かう。
ドアをトントンってノックすると、先生がすぐに開けて、中に入れてくれた。
先生の部屋はモノがあんまりなくって、いっつもキレイに片付いている。
そんな先生の部屋のリビングには、そんなに大きくない机と、さぶとんが2枚。
僕はその片方に座るように言われて、言われるままに座った。

ちょっとして、先生がマグカップを2つ持ってきて、僕の方に1つと自分の方に1つ置いて、僕と反対側に座った。

「どうぞ、ここまでくるの、寒かったでしょ?」
「あ、ありがとうっ!」

そっとマグカップを両手で包み、ゆっくりと一口飲んでみる。
それは暖かいココアで、なんだかすっごく落ち着いた。

「ところで、なんで俺にあの小説を読ませようとしたんですか?」
「ん?」
「理由があるんでしょ、じゃないと、いきなりあんなの読んでなんて言わないはず…」
「別に、理由なんてないよ〜!」

理由がないわけない…
でも言えない…
先生に、「好き」って言って欲しいから、「好き」って言葉が書いてある本を探したなんて…
でも、今考えたら、先生はそういうとこ割り切って読むんだろうし…
結局、僕がむなしいだけなのかもなぁ…

「でも、もういいや…!」
「どうして?」
「もう、眠くなっちゃたし…それに、先生も出張帰りで疲れてるから…」

もう、いいや…
どうせ、先生の気持ち分からなくても…
むなしくなるよりは、ましだよね…

「ってことだから、ココア飲んだら、帰るね?」
「葉月くん…キミは、なんでも溜め込みすぎなんじゃないですか?」
「え…?」
「言いたいことがあるなら、言って欲しいことがあるなら…なんでも言ってください…僕の前でだけは、わがままでいてください」
「…でも」
「葉月くんは、自分を押さえ込むのが上手すぎます、もっと、他人を求めてもいいんですよ?」

…他人を求める…それって、何?
自分を押さえ込む…そんなつもり、まったくない…
ただ、人に迷惑をかけることだけは、したくない…
こんな考えは、いけないこと?

「僕は…」
「葉月くん、好きですよ…」
「…え…?」
「出張に行ってる間、ずっと葉月くんのことを考えてました」
「あ、えっと…」
「どうですか、自分の言って欲しいことを言ってもらえた気分は?」
「え…!?」

何、僕の考えてたこと、全部ばれてたの!?
でも、なんだか今まで味わったことのない喜びが湧き上がってくる…。
自然と顔が、にやけちゃう…

「やっぱり葉月くんはカワイイですね…俺は、あんまりこうやって口に出すこともないし、ましてや行動に出すことなんてもっと少ないです…でも、別に葉月くんが嫌いになったとかじゃなくて、性格とか、葉月くんを気遣う気持ちとか…そういうのがいろいろ混じって、今の状態におさまってるんです」
「先生…」
「キミは、今までもこれからも、ずっと、俺の一番だから…例え、離れていても、ね…」
「…うん!僕も、先生が一番大好きだよっ!」

机の反対側までまわって、先生におもいっきり抱きつく。
先生は、優しく僕の頭を撫でてくれた。
その後、好きだの愛してるだの、キミが一番だの…いろいろ恥ずかしいことを耳元で低めの声で囁かれて…
どうしようも逃げ場がなくって、すっごい恥ずかしかったけど…
でも、これって幸せってことだよね―――。


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