現在、陽介は休みの日の真昼間というのに布団の中に居た。 白と青のしま模様というありきたりのパジャマを着て、頭にひんやりと濡れたタオル、そして枕元には水と氷が入った洗面器が置いてあった。 陽介は風邪をひいてしまったのだ。 前日から少し体がダルかったがすぐ治るだろうと思いほおっていておいた次の日、つまり今現在には体が全然動かなく、唯一メールを打つくらいの元気しかなかった。 もちろん送った相手は、瀬川綾斗一人だった。 そして今。 「何で折角の休日に俺が陽介の面倒を見なきゃいけないんだよ。俺にだって用事の一つや二つがあるのに」 「だって恋人じゃん」 「な…………はぁ〜、俺ちょっと出かける」 「病人をおいていくか?普通………綾斗!無視するなー!!」 陽介が今出せる精一杯の声で叫んだが、ガチャっとドアの閉まる音が聞こえた。 その後足音も物音もその方向から聞こえなくなったので本当に出て行ったのが分かった。 隠れて自分を脅かすつもりだろう、と思って綾斗が出て行った方向をずっと観ていたが、全く出てくる気配が無かった。 綾斗の居なくなった部屋はシーンとしていて、陽介が寝返りをうつたびに聞こえる布団のかすれる音だけが響き渡った。 その音の間には必ずと言っていいほど大きな溜め息があった。 「うぅ〜…綾斗のバカヤロー。もういじけてや、る…」 弱々しくその一言を言った後、すぐに睡魔に負けた。 それから10分ほどたった後、部屋のドアが静かに開く音が聞こえた。 「陽す…け、なんだ寝ているのか。あんなにうるさく騒いでいたくせに」 今度は綾斗が溜め息をつき、手に持っていたスーパーの袋を下ろした。 そしてゆっくりと陽介が寝ている隣に座った。 陽介は綾斗の反対方向を向いてスースーと寝息を立てて寝ていた。 そんな陽介をジーッと見て、汗で少し湿っている髪を綾斗なりに優しく撫でた。 「今の俺にはこんな事しかできないけど、治るまで側にいるからな」 陽介が聞いていないと思い、つい綾斗がふと微笑んだ時、いきなり陽介が寝返りを打ち綾斗に話しかけた。 「こんな事じゃないよ。俺、綾斗が近くに居たら元気になるんだよ」 「!…な、何だよ、寝てたんじゃなかったのかよ!起きてたんなら早く言え」 「綾斗の可愛い声で起きた」 何だよそれ、と真っ赤な顔を隠しながら言う綾斗に対して、陽介はヘラヘラといつも通り微笑んでいた。 その余裕が悔しいのか、俺飯作ってくるから、と一言残しその場から離れようと綾斗が立ち上がった瞬間… 「治るまでなのか?側にいるのは」 「陽介次第」 真顔で質問する陽介に対して、綾斗はキッパリと最後の一言を付け加えて部屋から出て行った。 その後「俺次第か〜」と嬉しそうな顔をしたまま、陽介はまた眠りについた――― |