今日は朝からどしゃ降りで、千里と遊びに行く約束なのに行けない。 「退屈…」 せっかく珍しく朝早くから起きて千里の部屋に行ったのに…。 俺は千里の部屋の通称『俺の特等席』のソファに座っていた。 「幸夜〜さっきからそれしか言ってないですよ」 「それ以外になにを言えばいいんだ…」 「あ〜確かに外に出られないのは嫌ですよね」 (はぁ…) 溜め息ばかりが出てしまう。 せっかく久々のデート行く場所とか決めていたのに…このどしゃ降りのせいでパァだ。 「じゃあせっかくですしなにかしましょう?」 突然千里が俺に言う。 「何かって何するんだ?」 「そうですねぇ…」 千里は俺の隣に座り首をかしげて考えていた。 うーんと唸りながら一生懸命考えている千里を見ているだけで俺のこの退屈感がなくなるのはあえて言わないでおこう。 しばらく千里をじっと見つめていた。 「あ!そうだ!」 千里がいきなり大きな声を出すから俺は不覚にもびっくりしてしまった。 「!!千里いきなり大きな声を出すなよ」 「あ、すみませんιそれより幸夜いいこと考えました♪」 千里はやけにニコニコしている。 あれほど考えてくれたんだどんな事を言うのか…。 「しりとりしましょ♪」 「は!?」 俺は一瞬耳を疑ったさっきまでうーんとうなりながら一生懸命考えていたはずだよな? なんだこの語尾に音符かハートマークがつきそうなテンションは。 「ですから〜しりとりですよ〜」 「マジに言ってるか?」 「もちろんです♪それとも幸夜しりとり嫌いですか…?」 さっきまでとてつもなくニコニコしていた千里の表情がだんだんと暗くなり今にも泣きそうなくらいしゅんとなっていく。 (うぅ…) 千里のたまに見せるこんな顔には惚れた弱味なのか実は弱かったりする俺なのだ。 「わかったからそんな顔すんなよ」 「じゃあしりとりしてもいいですか…?」 「まぁ、たまにはいいんじゃないか」 「やった♪幸夜ってやっぱり僕には弱いんですね(ニヤリ)」 (は、はめられた〜!?) 俺はまんまと千里の泣き落とし作戦にはまり、しぶしぶしりとりをすることになった。 (はぁ) 「あ!ひとつ言っておきますが僕幸夜にだけは負けない自信ありますから(ニコッ)」 「俺にだけはってすごい自信だな〜俺だって負けないからな」 勝負事に関しては負けず嫌いな俺はいつの間にかやる気満々になっていた。 それに加え千里が俺に勝つなんて言うからさらにやる気になってしまった。 「じゃあいきますよ〜まずは幸夜の《や》からです」 「何で俺の名前からなんだ?」 「まぁ細かい事は気にしないでください」 何でいきなり始まったしりとりゲームが自分の名前から始まるのかいまいちよくわからない。 けど千里が楽しんでくれるならいいと思ってしまう俺がいる。 「別にいいけど…」 「じゃあ僕から〜えっと…《山びこ》」 「《こ》かぁ、《こども》」 「《も》ですか〜《モモンガ》!」 (かっ、かわいい///) ピンッと思い付いたのか千里が指を立てて《モモンガ》なんか言うからつい赤くなってしまった。 「《ガ》…《学校》」 休みの時にさえ学校が頭に浮かぶ俺はちょっと自分が虚しくなった。 そんなことを考えてるとは知らない千里はしりとりの続きをしていた。 「《う》ですか〜」 顎に手をあて必死に考えている。 (《う》ってありすぎるくらいないか…) 「あ、そうだ!負けたら罸ゲームにしましょ」 またもやいきなり話題を変えてきた千里。 「負けた人は勝った方の言うことを何でも今日1日聞くってことで」 これは絶対に負けられない! なにかと(いろんな意味で)千里に負けている俺がやっと千里に(いろんな意味で)勝てる提案じゃないか。 「おもしろい、そのルール乗った!確認するけど何でもいいんだよな?」 「はい♪僕も絶対に負けられないですね幸夜にはぜひしてもらいたい事あるんですよね☆」 なんか怖い…やけにイキイキしている。 「じゃあ続けましょ《う》でしたよね?」 「そうだ」 「《う》…《うなぎ》」 (できれば《うさぎ》って言ってほしかった…) 「《ぎ》…《ぎ》…(意外に難しくないかこれ…)」 俺は意外にも《ぎ》が出てこなくかなり苦戦していた。 「ほらほら幸夜♪《ぎ》ですょ」 (なんか悔しい) (《ぎ》…ぎんなん、ギロチン、…《ぎ》って何気に最後に《ん》付くの多くないかι) 「…なぃ…」 「え?聞こえないですよ?」 絶対に聞こえてるはずだよな…。 「…っ、負けました」 あえて小さな声で言った。 それを聞いた瞬間の千里の顔はすごくいきいきしていた。 「じゃあ罸ゲームですね」 (なにを言われるんだろう…) 俺はこの笑顔と前に千里が言ってた俺にぜひしてもらいたいことがなんなのか正直怖かった。 「じゃあ、お弁当」 「え?」 「明日は僕にお弁当を作って下さい」 千里が俺にしてもらいたいこと…これか。 「あ!もちろんタコさんウィンナーに卵焼き、あと…僕の好きなものを入れてください」 僕の好きなものくらいはわかりますよね?なんて言いながら千里はニコニコしていた。 確かにいつもたまに千里が弁当を作ってくれる、まぁいつもは学校の食堂ですませるから俺から弁当を作ったことはない。 「頼みましたよ♪」 千里が笑顔で俺に念をおす。 「わかったよ!じゃあ今から買い出しに行かないとι」 俺はさっそく準備をするために玄関に向かい千里から傘をかり買い出しに行った。 後ろを振り返ると千里がいってらっしゃいと手を振っていた―――。 |