朝。 いつものように幸夜と挨拶をして席についた。 けど、なんだか少し、いつもより元気のない顔…。 心配になって聞いてみても、なんともないの一言で終ってしまう。 昨日の放課後は、遅くまで先生の仕事を手伝っていたし…寝不足か何かかなぁ? そう自分に言い聞かせ、あまり心配しすぎても怒られてしまいかねないので、あまり気にしないようにただただ平凡に過ぎていく時間をいつものように過ごした。 「ちーちゃん!」 「…っわ、ビックリしたぁ…」 「えへへ、ごめんね〜?」 4限目の授業が終わり、教科書を片付けていた時、後ろから大きな声が聞えてくる。 振り返ると、ニコニコといつもの笑顔の李音ちゃん。 しかし、そのニコニコの笑顔がちょっと近付いて、真剣な顔に変わる。 「こーちゃんどうしたのかなぁ?…今日、ちょっと変だよね…?」 「やっぱり、李音ちゃんもそう思いますか…?」 「うん…」 「幸夜、自分のことは何も言わないから…もし何かあっても、分からないんですよね…」 「こうなったら、強行突破とかいう…」 「李音ちゃん、強行突破って、何をしようとしてるんですか…?」 「…分かんないv」 真剣な顔で幸夜のことを話し、最後にはニッコリと笑顔に戻る李音ちゃん。 それにしても、李音ちゃんも同じことを思っていたなんて…。 これは、昨日の云々のどころじゃないかもしれませんね…。 「僕、ちょっと幸夜と話してきますね」 「うん、ちーちゃん、こーちゃんのことよろしくね」 「はい」 心配そうな顔をする李音ちゃんに、ニッコリと微笑んで返事を返す。 そして、いつもなら絶対にしない、肩肘をついて目を瞑っている幸夜に近付く。 いつもならここらへんで気付いてくれるはずが、今日はまだ目を瞑ったまま…。 幸夜の前の席に座って、顔をジッと見ていると、少しだけ、いつもより顔が赤いことに気付いた。 もしかして…。 そう思って、幸夜の額に手を当てた…。 「…あれ?千里…」 「…幸夜、もしかして熱があるんじゃ…」 今日一日、幸夜が変だったのはこのせいだったんですね…。 なんで、気付いてあげられなかったんでしょう…。 それに、幸夜も幸夜です。 ちょっと熱があるだけでも、僕には休めっていうくせに、自分はこんな高い熱をだしても、平気な顔して出てくるんですから…。 「まぁ、ちょっとな…そんなに気にするほどじゃ…」 「こんなに熱いのに、気にしないわけにいかないでしょ…!?」 「千里…?」 「とにかく、一緒に保健室行きましょう!」 「あ、あぁ…」 珍しく口調の強い僕に驚いている幸夜は、特に何も抵抗することなく、ただただ手を引かれて保健室についてきてくれた。 先生に理由を話して体温計を借りて計ってみると、38度…。 「あらら、結構高いね〜薬あげるから、部屋でゆっくり休みなさい。先生には俺から言っとくからさ」 「…別に、こんくらい…」 「幸夜…!駄目です…勉強なら、ちゃんと休んでしっかり治してからでもいいでしょ…?幸夜の身体は、一つしかないんですよ?」 「…千里…」 「僕も…一緒にいますから…」 なんとなく、幸夜が自分のことを考えなさすぎていることが、心を痛めた。 それだけ、切実な言葉が出ていたんだろう。 先生も幸夜も驚いて、一瞬言葉が出なかった。 その後、先生が僕と幸夜が部屋にいることを次の担当の先生に伝えてくれて、僕はその後一日を幸夜と過ごすことができた。 部屋に戻ってすぐ、幸夜を布団に寝かせると、古流ではあるが、タオルを水で濡らして、額の上に乗せてあげた。 「ありがと…心配、かけた…」 「いいんです…でも、次はないですからね…」 「あぁ…」 「とりあえず寝てください…僕、ずっと隣にいますから…」 「あぁ…」 その後すぐ、幸夜は小さな寝息をたてはじめた。 弱っている姿を見せたくないがために、教室で見せていた強がりもいつの間にかどこかに消えていて…。 今は僕にしか見せない、幸夜の弱い部分をさらけ出して…。 「気付いてあげられなくて…すいませんでした…」 本人に言うと、確実にお前のせいじゃないと言わそうなので、呟くように、しっかりと幸夜の顔を見ながらそう囁く。 その後、時々タオルを換えながら、僕も幸夜の隣で眠りに入ってしまった。 幸夜は一日で熱が下がり、次の日にはいつもの幸夜に戻っていた。 僕はと言えば、その日布団もかけずに寝てしまったのが祟ったのか、幸夜と入れ替わりに熱を出してしまい…。 その後3日間、幸夜に看病してもらうことになってしまった―――。 |