夏休みも終わりに近づき、涼しい風が吹き始めた頃、俺達は、夏休みにはいる前から約束していた、近所の夏祭りに向かうことになった。 俺達が向かっている祭りは、ここら辺じゃ一番大きな祭りで、約一週間続く。 中でも、日曜日である今日は、人が一番混雑してくるが、その分、花火の量が平日の二倍くらいはあると言われている。 それにしても、今回のメンバーはとてつもなく豪華だ。 葉月と一緒に計画してきたおかげで、委員長と、副委員長も一緒だし、俺だって、水無月兄弟と…なんてったって、綾斗がいるんだから。 俺達は寮の前で待ち合わせして、もうすぐ会場になっている神社に着こうとしていた。 祭りの明かりが見え始めた頃、今日は珍しくはしゃぎもせず、というか、一言も発言してないんじゃないかってくらい落ち込んでいた葉月が、ボソリと呟く。 「先生も、これればよかったのになぁ…」 「季音ちゃん…」 「うぅ…どうしようちーちゃん、先生に会いたすぎて、先生の幻影が見えるよぉ…」 葉月の言葉に、皆が多少呆れ気味に指差された方を向く。 そして、固まる。 「季音、あれ、泉先生じゃないか…?」 多少の沈黙の後に、副委員長がゆっくりと口を開いた。 「え…?」 その副委員長の言葉に、驚きを隠せなかった表情と声になる葉月。 何度か目をパチクリさせて、再度確認する。 人込みの向こうに、いつも見慣れた、優しい顔が、今日は少し真剣になって、辺りを見回しながら歩いていた。 「先生、見回りかなぁ?」 「見回り…お仕事…?」 「ん…?お仕事だと思うけど、どうして?」 「僕ね、今日先生誘ったら、お仕事あるからごめんねって言われたの…お仕事、これだったんだ…」 何となくほっとしたような表情の葉月に、皆何も言えずに、葉月の顔を見ていた。 すると次の瞬間にはいつもの表情を取り戻していた葉月が、走り出す。 「季音…!」 「ごめん皆っ…僕、先生のとこに行ってくるね!後で合流しよう!」 「季音ちゃん…よっぽど先生に断られたことがショックだったのかな…?」 止める間もなく走っていく葉月の背中が見えなくなった頃、委員長がボソリと呟いた。 「まぁ、葉月は今まで甘やかされてきてたからなぁ、たまには変わったことがあってもいいんじゃないか?な、あや…」 話を振ろうとして気付いた…。 綾斗、どこ!? 「綾斗…?綾斗…!」 「あれ?そういえばあいつどこいったんだ?」 「本当だ、さっきまでココにいたのに…」 「おい、桐生…やばいんじゃないのか?」 「う、うん…どうしよう…」 綾斗は絶対に迷子になんてならないだろうって時に限っていなくなる。 ちょっと目を離すと、すぐに居なくなっちゃうから怖いんだ…。 誰かに絡まれてないかとか、あんなにキレイな顔してるんだ、心配してもしょうがないだろ…。 綾斗…。 頭の中で、綾斗の名前を呼びながら、ゴチャゴチャと考えていた。 けど、こんなことしても何にもならないんだよな…。 とにかく…。 「俺、探してくる…」 「は?」 「ごめん、でも…あいつがいないと…本当ごめん!後でメールするから!」 そう一言残して、俺は、制止の声なんて聞えないという風に今来た道を一直線に走り始めた。 陽介の背中が見えなくなり、俺たちはしばらく立ち尽くしていた。 このメンバー…すっごくやりにくい…。 はっきり言って、俺と保健委員長ズとはなんの関連もない。 言ってしまえば、智夜が保健委員だから、見たことがあるくらいなもんだ。 なのに、いきなり4人にしやがって、陽介のヤツ・・・。 「あの…」 その、俺たちの周りだけ妙に静かだった空間を最初に崩したのは、委員長だった。 「どうしましょうか…?」 「どうしましょうか…ってもなぁ…」 「えと…僕たちも、綾斗くん探すの手伝いませんか?」 「え…」 「だって、陽介くん一人より、確実だし…連絡はとれるから、見つけたら連絡すればいいし…」 確かに、ナイスアイディア! それなら…。 「なぁ、4人一緒に探すより、ふたてに分かれた方がもっと確実なんじゃないか?」 「え…雅夜…?」 「な?お二人さんもそう思うだろ?」 もうこうなったら、強引にでも二人きりになってやる…! なんて考えてるなんて知りもしない委員長ズは、一瞬キョトンとした顔をしたが、ふっといつもの顔に戻る。 「まぁ確かにそうかもしれないな…」 「だろぉ?」 「ちょっ…ちょっとだけ、李音ちゃんのことも気になりますしね…」 「え、えぇ!?」 「ってことだ、じゃぁ俺たちは陽介の行った方探してみるから、そっちはそっちで探してくれ、見つけたらメールよろしく!じゃ!」 「ちょ、ちょっと雅夜…!?」 早口で用件を伝えると、智夜の腕を掴んで、陽介の行った方向へと走っていく。 智夜はなにか言いたげな目で俺を見ていたが…見ないふりをした。 「せんせ―――っ!!」 李音は精一杯大きな声を出しながら五月を追いかけたが、話し声や店の人の声などで声がかき消されていた。 「先せ、うわぁ!ごめんなさい!!」 人混みがすごい為すれ違う度に何回もぶつかってしまった。 一生懸命五月の名前を呼んでも五月の足は止まらず、むしろどんどん距離が離れていった。 それが自分と先生との距離のようだった。 徐々に距離が遠くなりそしてこのまま離れてしまうんじゃないか、という不安。 その思いがどんどん大きくなっていった。 「先生、折角会えたのに、諦めたくないよー」 いくら大きな声を出しても届かない、そう思っても呼ばずにはいられなかった。 ついに李音は立ち止まり涙を必死にこらえて下を向いた時。 「どうかしたの?」 目の前で誰かが立ったので先生かと思い、顔を思いっ切り上げる。 しかしそこには、知らない若い女性二人が李音を見ていた。 李音は混乱していたため、その2人を呆然と見ていた。 「迷子かな?」 「とにかくお姉さん達と一緒に行動しようか」 李音の見た目は大体小学校高学年又は中学1年生に見られてもおかしくない童顔と身長。 だから迷子に思われた。 そして一人が李音の手を掴もうとした瞬間―――。 「葉月君、行きますよ」 いきなり彼女達の横からずっと先を歩いていたはずの五月が現れ、すぐさま李音の手をとりその場から離れた。 振り返り際に彼女達を見ると、二人とも李音と五月をジィーっと見ていた。 そして祭りから少し離れた静かな所まで二人共一言も話さずに早歩きで歩いた。 先生の顔を全然見ていなかったので、覗き見るように見てみると眉間に皺を寄せていた。 「せ、先生?」 「すみません、本当はずっと気付いていたんです。君が私を追っていた事。どこまで私を追いかけてくれるのか。そしていつか私の事を諦めて、他の誰かと遊びに行くのだろうかって、思っていたのですが」 一歩李音に歩み、優しく頭を撫でながら話を続けた。 「ですが、いざ君が誰かに声をかけられていたのを見て…大人気ないですね」 「先生…………そいえば僕に声をかけるタイミング、良くなかった?」 李音はきょとんとした顔で五月の顔を見た。 意外な言葉に一瞬五月は口を半開きにしていたが、すぐに含み笑いをした。 「そうですね。実は密かに狙っていたのかもしれませんね」 五月は笑いながら言い、暫く笑った後軽く深呼吸を一回し李音に微笑んだ。 「何だか話が大分ずれましたが葉月君、私と一緒に見回りをしませんか?今勤務中なので遊んではいけませんが、楽しんではいけないとは決まっていません。なので2人で祭りを楽しみませんか?」 李音の目から先程まで我慢していた涙が流れ、先生の袖を軽く掴み何回も頷いた。 それと同時に花火が上がり始めた。 「うわぁ、先生すっごい綺麗で大きいね」 「次は待ち合わせて一緒に行きましょうか。転勤がなければ、の話ですが」 李音は真直ぐに空を見たまま、絶対の自信があるようなキラキラした声で言った。 「絶対、ぜ―――ったい僕が何とかするから転勤なんて無いもん。先生は僕が卒業するまでずっと居るの」 冗談で言ったつもりが、あまりに真剣で可愛らしい答えを言ったものだから、五月はゆっくりと目を閉じた。 「何だか、君が言うと本当にそんな現状になっても何とかなるような気がします」 ボソリと言い、目を開けて二人でずっと花火を見ていた。 「本当に君と居ると楽しいよ、葉月君。ずっと君の側に居られたら」 五月の言葉は李音の耳には届かず、花火の音と共に消えていった―――。 俺は周りに目もくれず綾斗を探しひたすら走った。 『くそっ…一体どこではぐれたんだ!』 落ち着かない…それどころか苛立ちさえ覚えてくる。 ただがむしゃら走る。 『綾斗!綾斗!綾斗!』 綾斗のことが心配で仕方なくて自分が今どこを走っているのかさえ分からなくなりそうだ。 携帯で連絡をとればすぐにすむのにそんなこともすっかり忘れていた。 導かれるままに進んでいくといつの間にか会場から少し離れたところにいた。 目の前には少し長めの階段がある。 なんとなく綾斗がそこにいるようきがした。 俺の綾斗に関するカンは異常によかったりする。 一段ずつ登るのがじれったく2〜3段軽く飛ばして登っていくさすが俺☆ 俺の勘は当たった。 息を少し切らしながら階段を登った先に見覚えのある今一番会いたかったシルエットがあった。 浴衣を着て(無理矢理着せた)いて頭には俺が買ってつけた(ムリヤリつけた)お面が…。 『間違いない綾斗だ!』 綾斗は自分がまた迷ってしまったがわかっていたらしく辺りをキョロキョロみている。 背中を俺に向けているせいか俺に気付かない。 最初ゆっくり綾斗の方に歩んでいき次第に速くなる足に最後は綾斗に向かって走っていっていた。 「ん?…ようすけっ!?」 走る足音に気付き綾斗がこちらを向く。 走っていった先にいた彼を思い切り抱きしめる。 「くっ、くるひい…」 俺は綾斗が見つかった安心感か一番大切なやつにまた触れることが出来た喜びからか力の加減をすることも忘れていた。 「ばっ、よう、誰かに見られるって」 「誰も見てない」 「見て…っ」 俺は気づいたら綾斗の形のいい唇に自分のを押し当てていた。 綾斗の顔はいきなり自分の言葉がキスで遮られた驚きと抱き締められているドキドキ感でみるみる真っ赤に染まっていく。 腰に回していた片方の手を綾斗の頭の後ろに回してより深く口づけた。 綾斗は少し苦しそうになりながら目を潤ませている。 『っ…///』 ヤバい…今更ながら浴衣を着ている綾斗が更に可愛く思えるこいつが男だって事を忘れてしまう瞬間がたまにある。 こりゃ末期だな…なんて思いながらも綾斗を離さないようにしっかり抱き締めていた。 お互いを繋いでいたそれを離すと綾斗はやっと息が思うように出きるようになった安心感か地面に崩れるように座りこんでしまった。 「あ、綾斗!?」 俺も綾斗と一緒に座りこんだ。 「…か…」 「え?なんか言ったか?」 「っく…」 「綾斗?」 綾斗は顔を下に向けて俺と目を合わさないようにしていた。 そっと顔を覗き込むと綾斗の目には大粒の涙が。 俺は静かに綾斗の頭に手をおいて再び自分に引き寄せた。 「ごめんな…一人にして」 「…こ、怖か、った…」 綾斗から俺にしがみついてくる。 俺達はしばらく離れてしまった時間を取り戻すように抱き合った。 ヒュー…バーン どれくらい時間が経ったんだろう気づくと空には大きな花火がうち上がっていた。 「綾斗、見てみろよ」 「きれいだ…」 ここには誰もいなかったおかげか花火の音しか聞こえない。 「あ、そうだ、陽介はい」 「…リンゴ飴…まさか綾斗…俺に…」 「別に…陽介のせいではぐれた訳じゃないから気にすんな」 そう言うと綾斗は袋からリンゴ飴を取りだしかじりついた。 花火のせいか照れてるのか頬を赤く染めたままだ。 「綾斗…thank youvV」 俺は嬉しさのあまり綾斗に抱きついた。 「うわっ、陽介」 「やっぱ綾斗可愛いv」 「可愛くない!…ってか離せぇ〜」 「離さない」 「だ〜か〜ら〜」 二人のいつもどうりの光景を花火だけが空から照らしながら見守っていた。 「雅夜…雅夜っ!」 陽介を追いかけると言って走り出し、二人が見えなくなった頃、智夜は強引に俺の腕を引っ張って、勢いをとめた。 「何?智夜」 「何?じゃないでしよ…!綾斗くん探すのに、何で走る必要があるの?もっと注意深くまわりを見て歩かないと…」 「つか俺、悪いけど最初からアイツ探す気ないから…」 「え…?」 「…智夜と二人になりたかったんだよ。委員長たちだって、陽介たちだって、きっと同じだったんじゃないか?」 「そんな…」 智夜は、少し複雑そうな顔をして、視線を地面へと落とす。 「そうかもしれない…そうかもしれないけど…今日は皆で来てたんだから…」 「でも、こうなっちまったらもう諦めるしかないだろ?…最後の花火の時にでも、皆で集まれればいいじゃないか」 「…でも…」 智夜が次の言葉を発そうと顔をあげた。 しかし、でてきたのは予想外の言葉だった。 「綾斗くん…」 「は…?」 訳が分からずに聞き返したが、次の瞬間には、智夜の視線が俺を通り越していることに気付き、振り返る。 そこには、少し離れた場所にキョロキョロしている綾斗の姿があった。 「綾斗く…」 「ダメだ…」 智夜が綾斗の名前を呼ぼうとしたのとほぼ同時に、俺は智夜の腕を掴んでいた。 「ちょ、雅夜、何するの?折角綾斗くん見つかったのに…」 「俺には…俺にはあいつがどうなろうと関係ない…!」 「な、何言って…」 「行くぞ…」 「ちょ…!雅夜…!」 掴んだ腕を引き、瀬川が見えた方とは反対の方向へと歩きだす。 智夜は無言の俺から何かを感じ取ったのか、途中まで暴れていたが、神社を出る頃には、連れていかれるがままになってくれていた。 * * * 俺達は無言で歩いた。 気付いたときには、祭りの音が届かない場所まできていて、俺達はそのまま寮へと足を向けた。 たどり着いた寮は、まだ帰省中の生徒が多いのと、帰ってきていても、祭りに行っている生徒が大半で、夜の静けさにつつまれていた。 「…雅夜…どこ、行くの…?」 静かな寮に響いた声は、どこか不安な響きをしていた。 しかし、俺はそれでも無言で目的地へと、階段を上って行く。 長い階段を上り終え、目的としていた場所の扉が見えた。 「ここ…」 「ここ…って、屋上…?」 「そ、俺が本当は智夜と二人で花火を見ようと思ってた場所」 「え…」 智夜は思いきり目を見開いて俺のことを見た。 俺は、最愛の人間にしか見せない笑顔を智夜に向け、ずっと掴んだままの腕を引いて、屋上という目的地に足を踏み入れた。 「…涼しい…」 「智夜、上のぼろうぜ」 「う、うん…」 俺達は、入口の正反対にあるはしごを上って、学校で一番高い場所に立つ。 上を見ると、真っ黒い空に星が点々と散らばっているだけ。 「きれい…」 「なんかさ、ここから空を見てると、嫌なことなんて全部忘れて、何にも考えないでいられるんだよな…」 「うん…」 智夜が、空を見上げてうっとりとしている横顔を見ながら、その場に座り込む。 智夜も俺に気付いて、ゆっくりとしゃがんだ。 その時、背中の方から大きな音が聞こえ始めた。 振り向いて、二人で顔を見合わせて微笑む。 「花火、はじまったね…」 「どうだ?ここから見る花火は最高だろ?」 「うん、今までで一番…最高」 囁かれるように言われた言葉を最後に、俺達は夜空に輝く無数の大きな光の花に見入ったのだった―――。 双子達と別れた後、幸夜は双子達が見えなくなるまでずっと見ていた。 「さて、しょうがないから捜すか……千里、まずドコから捜す?」 「………」 まさか迷子の子猫第二号が出たのではと思い千里の方を見ると、確かに隣に居た。 たが返事が返ってこない。 「千里?」 「幸夜…あのぬいぐるみ」 「ぬいぐるみ?……あ」 千里の目線の先を見てみると、輪投げの出店があった。 そこの店の商品棚に、丁度抱きつくには良いくらいの大きさの黒い猫。 目が鋭く、明らかに生意気そうな顔だった。 それを抜かせば可愛いのだろうが…。 「あの(愛想の悪い)黒猫が欲しいのか?」 「え?!いえ、男として女性が欲しがりそうな物を欲しがるなんて…そんな事ないですよ」 顔を赤らめながら思いっ切り否定した。 その後、俺の疑いの目が耐えられないのか反対側の店の方を向いた。 あからさまな態度をとっているのがバレバレだった。 「あの女の子、黒猫のぬいぐるみをずっと見てるな(嘘)」 千里の体がピクッと動いた。 「射的とかは得意じゃないが、これだったら取れるのにな」 また千里の体がピクピクッと動いた。そして最後に一言。 「俺は素直な子が好きだな」 最後に千里にちゃんと聞こえる程度にボソッと言った。ようやく観念したのか少し涙目で幸夜の顔を見た。 「うぅ……欲しいです」 「千里は素直で良い子だな」 幸夜はそういうとほくそ笑みながら千里の頭を軽く叩いた。 その後、400円程使ってぬいぐるみを取った。 取っている間の千里は、「おしいです」「もう少し」「あぁ…」と幸夜の隣で言葉をもらしてばかりだった。 幸夜はそんな千里の可愛らしい反応を密かに楽しんでいた。 「スゴイです!本当に取れるとは思いませんでした」 「千里は俺を信じてなかったのか?」 「い、いえ、そんなことはありません。幸夜のことはいつも、どんな時でも信じてますよ」 幸夜が軽く溜め息をつきながら千里の方をチラッと見てみると、幸せそうにぬいぐるみを抱いていた。 「そんなに可愛いか?」 「はい!あ、少し幸夜みたいですね」 本人に悪意が無いのは分かっているが、かなり酷い一言を口走っている。 そういうとまた一層ぬいぐるみを強く抱きしめた。 「俺はそんなに無愛想な顔なのか?」 呆れながら千里に聞いた。 「え?あ…いえ、その」 答えに困っている時に最初の花火が上がった。 「わぁ、幸夜見てください。花火が…綺麗ですねー」 暫く周りの歓声と花火の音に浸っている時、ふと何かを思い出したように幸夜は呟いた。 「そういえば瀬川見つかったのだろうか…」 「あ……」 千里の顔をチラッと見てみると、顔が一瞬止まっていた。完全に忘れていたようだった。 「まぁ桐生は犬みたいなものだし、すぐ見つけ出せただろう」 「そ、そうですよね…」 苦笑しながら2人で花火が終わるまでずっと空を見ていた。 お互い来年もまた2人で一緒に来れることを祈りながら―――。 |