学校が行っている時間帯には青く澄んでいた空が段々橙色になり太陽も綺麗に真っ赤になっていた。 部活をしていない生徒が街に出掛けり寮に戻っていて、学校にいる生徒は少なく、廊下はいつもの昼下がりの時と比べて静かだった。 そんな静かな廊下を幸夜は保健室を目指し早足で向かっていた。 幸夜は帰りのHRが終わった後すぐに放送で呼ばれ、遅くまで先生の手伝いをしたため学校に残っていた。 そして幼馴染と帰る約束を破りたくないために急いでいた。 “もしかしたらアイツが淋しく一人で帰っているかもしれない”と思ったからだ。 そして目指していた場所のドアを思いっきり開けた。 消毒液の強い匂いがする部屋に一般生徒より慣れているためか足を止めることなく部屋の奥へと進んだ。 そこには我が高校の保健委員長の武中千里が机に俯いていた。 「悪い千里。遅くなっ」 「シー。今ちーちゃんはお昼寝中だから静かにしなきゃダメだよ〜」 声のする方を見てみると千里の左隣に座っていた同じクラスの葉月李音がシャープペンを動かしながら言った。 今日は保健委員の当番の日で普通は委員2人が居なければいけないのに今日当番の葉月1人しかいなかった。 もう一人の委員はどうやらサボって帰ったらしい。 「…明日お仕置きだな」 ボソッと葉月に聞こえない程度の小さな声で言い鞄を千里が寝ている机に静かに置いた。 「こーちゃん、何か言った?」 「あ…あぁ、お昼寝って言う時間帯ではないとは思うが…」 現在午後5時半過ぎ。お昼寝の時間にしては遅い。 「こーちゃん、あんまり細かい事を考えちゃダメだよ〜。きっと疲れてるんだよ。あ、僕今日用事があるんだった!こーちゃんも来たし先帰るねー」 葉月が広げていたノートを片付けている間、その場に居るはずの人が居ないことに気がついた。 「そういえば泉先生は職員室なのか?」 「あ、ううん。何か昼から急に出張だったらしくてね…今日1回も会ってないんだー。昨日も何かで休んでいてね…もう、しょうがない先生だよね〜」 葉月は下を向いたまま筆記具を鞄の中に入れていた。いつもより少しだけ声のトーンが低かった。 そして鞄の中に道具を全部入れ、顔を上げた時の李音は何かいい事があったようなニコニコ顔で鞄を担いだ。 学校の制服がなければまるで小学生、だが少し見せた淋しそうな顔は大人のような感じがした。 そんな葉月の姿をドアの近くに行くまでジッと見ていた。 それに気づいたのか、挨拶をしたいのか葉月は1回振り返った。 「それじゃ、ちゃんとちーちゃんを部屋まで連れて帰ってね。じゃあまた明日〜」 手を大きく振り保健室から出て行った。 その後バタバタと走る音が保健室の中からでもよく聞こえた。 「全く騒がしいヤツだな。にしても本当に千里は寝ているのか?」 幸夜は李音が出て行ったドアから寝ている千里に目線を再び向けた。 さっきまで葉月が居たから聞こえなかったが、スゥ…という千里の静かな寝息だけが保健室に響いた。 「ま、しょうがないか。最近忙しそうにしていたみたいだしな」 幸夜は寝ている千里に近づき、綺麗に後ろに一つ束ねている髪を優しく触った。 「もっと俺を頼ってもいいのに。どうしてそう一人で何でも頑張ろうとするんだ…」 「ん…こ、や…」 「…っ!?」 幸夜は千里が起きたのかと思い驚いたが、変わらない寝顔を見て、口の端を上げ目を細めて千里を見つめた。 夢の中でも俺の事を考えている。 それだけで、なんだか嬉しかった。 「幸夜はパソコンが好きなんですよ…李音ちゃん」 は?何故パソコン? というより、俺が出ている夢ではなく葉月が出ている夢を見ているのかよ。 時間がたつにつれて段々イライラし幸せそうに寝ている千里の頬にその苛立ちをぶつけた。 というより頬をつねった。 「ふぇ………ひぃ、ひたいれす」 その後千里の意識がハッキリした時にはまだ幸夜は傍に居たが、ずっと本を読み千里が話しかけても曖昧な返事しかしなかった。 |