学校行事なんて嫌いだ。

全部が全部って訳じゃないけど…
やる理由がよく分からない行事は、ある意味すら分からない。

そして、なんで俺がこんな話をしてるかって言うと
今日、その"よく分からない学校行事"があるからだ…





* naughty *






10月31日

日本ではほとんど行われないが、実は"ハロウィン"という行事が、世界の一部では行われる日らしい。

どんな行事なのか、どうすればいいのか…
今まで一度もそんな行事やったことのない俺にはさっぱり分からなかったが…
なんだかまわりのヤツラは妙に詳しかった。

と言っても、曖昧な知識ばかりらしく
意見の相違が多かったが…
まぁ、そこは日本だし、やったことないし、いいってことで。

とりあえず、学校から貸し出される衣装を無理矢理着させられて
「Trick or treat」とか、恥ずかしい言葉を発して、お菓子の交換する日…
ってことしか分からなかった。

「あ〜やとっ!」
「…ん?」
「クジ、お前の番だぜ」

いつものニコニコ(?)とした笑顔で、ダルそうに机に伏せていた俺を起こして、何か箱を目の前に突き出してくる陽介。

「俺の番?」
「なんだよ、聞いてなかったのか?衣装だよ、ハロウィンの!なんか、クジで誰がどれ着るか決めるんだってさ」
「はぁ!?何で!?」
「なんでって…クジにしないと、確実に簡単かつ恥ずかしくない衣装しか着ないからだって」
「…」

そりゃそうだろ…
なんて思いながら、引かないと先に進めないと言われ、渋々箱の中に手を突っ込む。

「じゃ、これで…」
「オッケー、それじゃぁそれ持ってて、あ、中はまだ見ないで!それと…」
「…何」
「例え中に絶対嫌だってことが書いてあっても、ズルはなしだから、これ、さっきも注意事項で言ったんだけどね」
「はぁ…」

そんなに悲惨な内容も含まれてるってことか?
まぁ何にせよここは男子校。
女子みたいに露出がどうとかいうことは別にないし、悲惨って言ってもたいしたことないだろ…

「スイマセーン、注目してくださーい!」

黒板の前に立って、確か…クラス委員長?が何か叫んでる。
別にそんなに盛り上がることでもないだろうに…クラスのヤツラは、楽しそうに雑談してる。
深い溜息を一つついて、机に伏せる。

「あの〜、今からどんな衣装があるのか発表しますから〜…皆聞いてる?」

スッと雑談がやんで皆の視線が黒板に集中する。
俺も、衣装…って言葉が気になって、前を向くと、委員長と副委員長がいそいそと一枚の紙を広げていた。

「今年の衣装は、これで〜っす!」

委員長が元気に叫んで、同時に紙を皆が見えるように広げ、黒板に貼り付けた。
俺の予想では、皆が一気に騒ぎ出して、いやだぁ〜とか、最悪だ〜とか…
そんな言葉が飛んでくるんだろうって思ってた…
そう、思ってただけ。

実際は、委員長が紙を広げる前よりはるかに静まりかえった。

「いや、ありえねぇだろ…」

誰かのその一言に、一人、また一人と、今意識を取り戻したかのように、同意の言葉を述べ始める。
紙に書いてあったのは…
魔女・動物の耳&しっぽセット・牧師・カボチャ・おばけ…等々。
けど、それだけじゃなくて
隣に絵がついていて
その絵は、なんだかどれも…
女物の服のように見て取れる形をしていた。
そう、要するに
どれを選んでも、同じような恥をかくことになるっていう…。

「それじゃぁ皆さん、自分の引いた紙を確認して、衣装をとりにきてください」

委員長の少し不敵な微笑と、その言葉に、皆ゾクリと体を震わせながら、自分の引いた紙をゆっくりと開く。
その後は、さっき俺が想像していた通り
皆の叫び声ともとれるような声が、教室中に響いた。





* * *






「…最悪な一日だった…」
「まぁまぁ、そう言わないで、結構楽しかったじゃん」
「お前はいいよな…オオカミのシッポと耳だろ?似合ってるし…」
「綾斗だって、耳とシッポ、似合ってたよ?」
「いや、嬉しくないし…つか、なんでハロウィンなのにウサギなんだって話しだろ」
「あはは、確かに〜」

波乱の一日がやっと終わり、俺と陽介はやっと自分の部屋への帰路についていた。
と言っても、それぞれの部屋にではなく、陽介の部屋に2人で向かってるんだけど…。

「まぁまぁ、とにかく疲れただろ、入って入って」
「おじゃましま〜す」
「どうぞどうぞ」

いつものように部屋に入ると、もうその先は普通にいつもの場所に座って、くつろぐのが一連の流れになっている。
ふぅっと溜息に似た息をついて座って、陽介の方を向くと、なんだか少し不思議そうな顔をしていた。

「どうした陽介、座らないのか?」
「あ、あぁ…あ、何飲む?」
「う〜ん…何があんの」
「お茶に紅茶に牛乳…くらいかな」
「じゃー、お茶」
「はいはい」

陽介も、その後はいつものようにいそいそと母親のようにお茶をコップについで、俺の座っているすぐ横にある机の上に置く。
そして、自分もいつもの場所に座る…と思ってたんだけど…。

「…陽介、何…?」

後ろから、ギュッて、強く抱きしめられた。

「だって綾斗、すっごいカワイイんだもん…」
「はぁ?」
「本当に忘れてるのか、もうどうでもよくなってるのか知らないけど…コレ…」
「…あ!」

陽介のコレの言葉と同時に目の前に現れたのは、気を抜いていて忘れていたが、今日のウサミミ…
付けたままだった!

「その焦りようは本当に忘れてたんだ…」
「そうだよ!だから、離せ!早くはずせ!」
「えー嫌、綾斗すっごくカワイイんだもん…その綾斗が俺の部屋にいるんだよ…」
「ちょ、陽介…」
「綾斗…」

ヤバイ、この雰囲気…
俺は、陽介に力で全く敵わない。
だから、その…陽介が暴れだす前に、言葉で宥めるしか方法がないんだ、けど…
もう完全にスイッチはいっちゃってる陽介…
どうしようとか思う前に、クルリと方向をかえられて、ドサッと床に押し付けられるようにして倒された。
そして…

「綾斗…」
「陽介…!んっ…」

防ぐ間もなくキスされていた。
しかも、いつもはしてこないのに、何故か俺の耳を、両手で顔を包みこむようにしながら優しく撫でてきて…
少なくともその手に感じてしまっている俺がいて…
その後は、もうほとんど覚えていない…





* * *






次の日の朝
起きてすぐ目の前にあったウサミミを、俺は壊さんとする勢いで陽介に投げつけた。
まぁ、理由は…なんとなく理解してもらえるのではないだろうかと、思う―――。


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