僕は今、夢を見ている。 そう断言できる理由は目の前には行った事も見たことも無いとても広い草原があるからだ。 ふくらはぎくらいの長さの緑の草が自分の周り一面に広がり、頭の上では白い雲とカラっと晴れた青い空が果てしなく続いているだけで、何も誰も居ない。 僕はその中をたった一人呆然と立っていた。 「ここはどこ?」とか「誰も居ないの?」とか言いたいのに声が全く出ない。 まるで喉が僕の声を発したくないと言っているみたいだった。 僕は声を出す事を諦め、空を見上げた。 何事も無くただ同じ方向に動いていくいつもと変わらない空であった。 暫くその状態に慣れてきたのかボーっとしていると、聴きなれた音が耳に入ってきた。 ― キーン コーン カーン コーン ― そこで夢が中断された。 ゆっくりと顔を上げ半分くらいにしか開いてない瞼をこすりながら周りを見てみると自分は教室に居た。 周りを見ていると自分の前に座っている人と目が合ってしまった。 その人はとても穏やかな顔をしていた。 「雅、夜?」 「おはよう。って言ってももう放課後なんだけどな、珍しいな智夜が学校で寝るなんて」 「うん……待っててくれたの?」 目の前に座っていた雅夜は「当たり前」と暖かい笑顔で答えてくれた。 自分一人で喜んでいる間にまた先程の眠気が襲ってきた。 「ダメ…まだ眠い」 睡魔に負け、折角雅夜が目の前に居るのに段々頭が下がっていく。 嫌だ、と思いながらもどんどん頭が下がって行く。 そしてついに机に顔を伏せ、雅夜の顔が見えなくなった。 目をつぶりながら「先に帰ってて」と小さな声で言ったのが聞こえたのか、頭を撫でてくれた。 「ここにいるから。だからゆっくり休め」 ただその一言と僕の頭を優しく撫でる感覚を最後に僕はまた深い深い眠りについてしまった。 その後どんな夢を見たのか詳しくは忘れてしまったけど、雅夜が出てきた夢だという事だけは覚えていた―――。 |