* vestiges *






夏休みに入って、今まで委員会やらなんやらでなかなか二人きりの時間がとれなかった俺達も、ようやく静かに過ごす時間を手に入れた。
と言っても、家に帰ってきて、多少気を使いすぎの母親たちに時間をとられたりして、結局その静かな時間は皆が寝静まった夜だけだった。
俺と千里は、昔季音と三人で一緒に寝ていた子供部屋に布団を二つ並べて敷き、寝転がって、部屋に一つしかない窓から、夜空を見ながら話していた。

「懐かしいですね…」
「俺達の思い出っていったら、ほぼ全部ここにあるようなもんだからな…」
「季音ちゃんもこれたらよかったんですけど…」
「まぁ、あいつは…仕方ないだろ…」

そう、この場に季音はいない。
理由は単純、俺達が委員会で忙しかったってことは、もちろん先生も忙しかったってことで、夏休みほとんど一緒にいれなかったらしい。
だから、残って先生との時間が欲しかったんだと…。
まぁ、俺達もあんまり変わらないから、何にもいえないまま、置いてきちまったわけだが…千里が寂しそうなのを見ると、罪悪感すら感じてくる。
そんな俺の苦しい返事に気付いたのか、千里はニッコリと微笑んで、「ごめんなさい…」と小さく言うと、それから何も言わずにまた窓の外を眺めはじめた。
そして暫く二人とも何も話すことなく、空を眺めていた。
その間俺は、今まで千里と過ごしてきた想い出をずっと思い返していた。
あんまりに記憶を探り出すことに集中していて、現実の千里のことを思い出した時には、千里は隣の布団で小さな寝息をたてていた。
昔より少し大人びたその寝顔は、何か止められなくなるほどの感情を引き起こすものと変わっていた。

「…今までも…これからも…ずっと放さないから…」

自分でもおそろしくなるほどの独占欲。
けど、この独占欲を受け入れてくれてくれている千里は、多少は俺のこと…なんて自惚れてしまう。
そっと柔らかい頬に触れて、逆の頬に起こさないようにそっとキスを落とす。
そして、名残惜しそうに触れていた部分全てを放して、ゆっくりと自分の布団にもどり、眠りについた―――。


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