僕の働いている保育園には、他の子がお母さんやお父さんに抱きついてダダをこねている園児がいる中、園児3人だけできて、それでいて他の子たちよりも元気な子たちがいる。 「千里くん、幸夜くん、李音くん、おはようございます」 「泉先生、おはようございます」 「はよっす…」 「さつきせんせい、おはようございます!」 この中でも一番元気なのが、葉月李音くん。 この園に入るより前にご両親を亡くしていて、今は千里くんの家に引き取られているということだけど…。 そんなのを微細も感じさせないこの子が、僕は何故かすごく気になってしまっていた。 「ほらほら、3人とも教室に入りましょうね」 僕がいつものようにそう言うと、3人はそれぞれに返事をして、自分たちの教室へと入っていく。 その姿を見送って、次の園児が入ってくるのを待っていると、ふいに横からエプロンを引っ張られているのに気付いた。 エプロンの先には、さっき教室に入っていったばかりのはずの李音くんが、僕の方をジッと見つめていた。 「どうしたんですか?李音くん」 「さつきせんせい、コレ、あげる!」 「ん?」 李音くんの小さな手に握られていた物を受け取る、それは手作りのお花の指輪だった。 「おや、これを先生に?」 「うん!」 「本当に、先生がもらっちゃってもいいんですか?」 「うん!先生じゃないとダメなんだもん!」 僕が小首を傾げると、李音くんは恥ずかしそうに声を小さくして話し始めた。 「僕ね、さつきせんせいのことが大好きだから、何かあげたいな〜って思って、ちーちゃんに相談したの、そしたらね、お花で指輪作ったら?ってちーちゃんが言ってくれたんだけど、こーちゃんが指輪は結婚する時にあげるんだぞって言ったの…僕、せんせいのことだ〜いすきだから、先生と結婚するの!だから、先に指輪だけあげるの!」 その真剣な眼差しに、「男の子同士じゃ結婚できないんだよ」とか、現実の話しをするのがためらわれて、僕はその指輪をそっと握り、笑顔で「ありがとう」と言った。 いや、それが精一杯だった。 だって、僕もこの子が"大好き"だから…。 手放したくないと思うくらいに…。 "大好き"だから… |