* magic *






夏休み。
1週間ほど帰省して、夏休み真っ最中のガラガラ学校へ戻ってきた。
母さんたちには悪いけど、折角の2人の時間を無駄にしたくないからな…それにしても、恋人になって早3ヶ月、未だになんの進展もない俺たちって一体…。
智夜が"そういうこと"に興味がないのは何となく分かっていたつもりだけど…もしかして、知らないなんてことはないよな…?
恋人が、2人きりの夜にすること…。
そんなわけで、俺はかなり前からとてつもない欲求不満になっていた。
そんな時、俺のことを気に留めてくれた人がいた…泉五月先生…実は先生ってすごい人で、ウチの学校の保険医にカウンセラー、独自で心理学や薬学を学んでる。
俺は大体人に頼ることなんてないんだけど、傷心中の俺に、先生の優しさはとてつもなく心に染み入って…。
ちょっと話しを聞いてもらった。
その時先生が、試してみるものいいかも…なんて言って、ある薬をくれた…これが、今回のことの始まり…。

* * *

夜。
学校に残っているわずかな生徒たちが寝静まった頃、俺たちは2人でのんびりとお茶をすすりながらテレビを見ていた。

「あ、もうこんな時間だ…雅夜、そろそろ寝ようか」
「あ、あぁ…」
「僕、お布団しいてくるね〜」
「ぉ、おう…」

智夜が隣の部屋に行ったのを確認して、パジャマ代わりになっているジャージのポケットに手を突っ込む。
ポケットの中に入っているのは、先生から貰った液状の、中身不明の薬…。
先生のことだから、心配はないんだろうけど…なんて、少し不安に思いながらも、薬をポケットから取り出す。
再度、智夜がまだ布団を出している途中なのを横目で確認、そして…さっきまで智夜が飲んでいた、飲みかけのお茶の中に…薬を入れた。
智夜が帰ってくる前に薬を元のポケットに入れて、さっきまでと同じようにテレビを見る。
実際、画面を見てはいるが、内容は一切頭に入っていなかった。

「雅夜、布団しき終わったよ〜?」
「あぁ、ありがと」

布団を敷き終わった智夜が、隣の部屋から戻ってくる。
智夜からすれば、風景は一切変わっていないが、俺からすれば、心境の変化はすさまじいものだ。
動揺を隠しきれるか不安だったが、ここは性格でカバー。

「あれ?智夜、まだ茶、残ってるぞ?」
「あ、本当だ」

智夜はなんの疑いもなく、湯のみに入っていた茶を薬と一緒に飲み干した。
いつもは茶のことなんて何も言わない俺が言ったっていうのにも関わらず…だ。
ここまでくると、何だか罪悪感すら覚える。
まぁ、最初から罪悪感を抱いているのが普通なんだろうけど…

「さて、僕は湯のみ洗って寝るから、雅夜は先に寝ててよ」
「分かった、おやすみ」

いつもなら…あんな無邪気な顔で言われちゃ、手ぇだすにだせないんだっつ〜の、なんて思いながら寝床につくのだが…今日はそうもいかない。
ドキドキしながら布団に潜り込む。
今日は寝れないんじゃないか…?
なんて思っていたのだが、俺はかなり図太いらしい、智夜が湯のみを洗って布団に潜り込むまで、起きていられなかったのだから…

* * *

朝。
俺は、顔の辺りに何かフワフワとしたものがあるのに気付いて、ゆっくりと目を開いた。そして、次の瞬間…。

「な、何だ…?これ…」
「ん…にゃ…」
「に、にゃ、だって…?」

不思議に思いながらも、そのフワフワから離れながら体を起こす。
するとそこには、ネコ耳の生えた智夜…。

「ちょ、な、何で智夜にネコ耳が…!?」
「う…んにゃ?雅夜、おはよー…」

まだ寝ぼけ眼の智夜、カワイイ…。
なんて一瞬見とれたことはいいとして、これは一体…?
…もしかして、これが薬の効果…!?

「雅夜?どうしたの?変な顔してる…」
「や、その、何ていうか…智夜、頭触ってみてくれないか?」
「頭?」

そういって起き上がると、俺の頭に触れてくる。

「何ともないよ?」
「や、俺のじゃなくて、智夜の…って、ぇえ!?」
「な、何?どうしたの?」

俺の頭に触れるために、布団から這い出てきた智夜の後ろで何かが動いた。
気になって見てみると、そこには…。

「し、しっぽ…?」
「へ?…え、何、これ…!?」

俺の視線に気付いて、智夜は自分の後ろを見る。
そこにあるのは、智夜の尻から直接生えているしっぽ。
そして、俺に言われたことを思い出したのか、頭に手をやる。

「み、耳が…」
「ちょ、智夜、落ち着いて、その、えーっと…ちょっと待ってろ!」

そう言って、智夜を置いて、パジャマのまま教室棟へと走った。
向かうはもちろん、保健室だ。

* * *

ドアを何度も何度も叩きながら、先生、先生と呼びかける。
まだ時間が早かったのか、先生は来ていないようだった。

「ちっくしょ、どうすれば…」
「…あれ?水無月くんじゃないですか?」

寮棟の方から、のんびりとした顔つきで、のんびりと歩いてくる人が1人。

「泉先生!」
「おや?そんなに焦って…もしかして、お薬のことですか?」
「え?」
「…やっぱり、そろそろ薬を使う頃じゃないかと思っていたんですよ」
「先生!あれ、どういうことだよ!」
「そのままですよ?ネコになっちゃうお薬です」
「ネコになっちゃうって、そんなに簡単に言われても…」

ところで俺はなんでこんなに焦ってるんだっけ?
朝起きたらいきなり智夜がネコになってて…それで…それで…。

「どうやったら元に戻るか…ですか?」
「そう、それだ!」
「本当に、水無月くんはお兄さんのことになると一生懸命ですねー、でも、ちょっと焦りすぎかもしれませんね」
「そんなのいいから、早く教えてくれよ!」
「…いいんですか?戻しちゃって…これは君が望んだことですよ?」
「え…」

先生に言われて思い出した。
これは、俺が望んだこと…俺が望んで、しかも実行してしまったからこそ、智夜はあんな風に…。
でも、俺が望んでいたのは何だ?
俺は、智夜ともうちょっと普通の恋人みたいにしたいって思っただけで…智夜を、怖がらせたかったんじゃないんだ…。

「雅夜くん、あの薬は、ただネコになるだけじゃないんですよ、オプション付きなんです」
「オプション…?」
「えぇ、オプションです、そのオプションを取り除くことができれば、一日と経たずに元のお兄さんに戻りますよ」
「その方法って!?」
「部屋に戻ってみれば分かりますよ、さぁ、お兄さんきっと寂しがってますよ、早く戻ってあげてください」

そう言うと先生は保健室へと入っていってしまった。
俺はとりあえず、先生の言ったとおり、部屋に帰ってみることにした。

* * *

「ただいまー智夜ー?」
「ま、まさ…や…」
「と、智夜!ど、どうした!?」

部屋に帰ってみると、目の前で智夜が体操座りをして小さくなっていた。
俺に気付くと、潤んだ瞳で苦しそうに俺の名前を呼んだ。
心配になって、近付いて優しく肩に手を乗せると、智夜はビクリと体を震わせた。

「智夜…?」
「まさやぁ…なんか、体が…変だよぉ…」
「どう変なんだ?熱っぽいとか、そんなのか?」
「ううん…雅夜…!」
「…っ!?」

不意打ちだ…まさか、智夜が俺に…キスしてくるなんて…。
触れるだけのキスがはなされようとした時、俺は智夜の奮える肩を抱いて、今度はコチラからキスをする。
最初は触れるだけだったが、だんだんと半強制的に口を開かせ、深いキスをする。

「ん…っ…はっ…にゃ…」
「あ…わ、悪い…!」

ハッと我に返り、智夜の両肩を掴んで自分から遠ざける。
智夜はその俺の両手を掴んで下ろさせると、俺に抱きついてきた。
その反動で俺は後ろにしりもちをつく形になり…智夜は俺の足の上に覆いかぶさるような形になってしまった。

「と、智夜…!?」
「雅夜、熱い…体が熱いよぉ…」

潤んだ瞳、甘い声、触れた部分から伝わってくる熱いほどの体温…理性が…兎に角この状況から脱出しなければ…。
そう思って智夜の下敷きになっている足を、とりあえず抜こうとして、膝を折る。
その時。

「んんっ…は、あぁ…!」
「…ぇ…?」

智夜の甘い声が、耳のすぐ横から聞えてくる。
しかし、俺はこの時、智夜の声以上の驚きに直面していた。
引き抜こうとした足は、智夜の股の間を擦りあげる形になってしまい…俺はこの時はじめて、智夜が勃っていることに気付いた。
断じて言っておくが、これは偶然であり、俺が触ろうとしたわけではない。
それにしても…オプションって、もしかして…これか?
これって、いわゆる…発情期ってヤツ…?

「ん…ん、っん…」
「…ぁ、あの…智夜…」

俺が混乱して固まっている間も、耳のすぐ横で智夜が甘い声を噛み殺している。
当然俺はまだ何もしていない。

「んゃ…まさ、やぁ…」
「と、智夜、とりあえず落ちてついて…」
「ゃ…んぁ…!」

智夜の腕は、だんだんと俺のコトを強く抱きしめる。
智夜は元から力が強いわけじゃないから、痛いとか全然ないんだけど…。
それにしても、俺まだ何もしてないのに、なんでこんなに乱れてるんだ…?
それとも、発情期のネコって、こんな感じなのかな…?
兎に角このままじゃどうしようもないし…発情期って言ったら、やっぱりアレしかないんだろうし…。
まぁ、確かに俺が望んでいたことかもしれないけど…布団まで連れて行くしかないか…。

「智夜、ごめんな…」

小さくそう囁いて、俺は勢いよく智夜の身体を自分の身体から引き剥がした。
すると、目の前に信じられない光景。
はっきりいって、ここで理性が保ったのが不思議なくらい…。
智夜のズボンは、後ろから見ても分からなかったが、前は大事な部分が全部見えてしまうほどはだけていて…。
しかも、その部分には、智夜のしっぽが添えられていた。
これだけでも十分理性の糸が切れてしまいそうだったのに、智夜は手を口にあてて、震えながらも、さっきまでしていただろう行為を、再度はじめてしまった。
要するに俺は、目の前で、ちょっと特殊ではあるが、大好きな智夜の自慰行為を見てしまったわけだ。
本当に、よく我慢した、俺。
自分でも褒めてやりたいくらいだ。

「智夜!ちょっとストップ…布団まで我慢して…!」
「ん、んにゃ!?」

意識が朦朧としていたからだろう。
智夜は俺に大人しくお姫様抱っこをされてくれた。
お陰で、布団まで運ぶのは楽だった。
しかし、これからどうしたものか…確かに、ヤリたかったのは本当なんだけど…こんな状態の智夜を相手にしていても、むなしいだけだ…。

「まさや…?」

俺の心情を悟ったのか、智夜が寂しそうな顔で俺を見てくる。
こんな寂しい顔させてまで、1人にする気か俺は…あーもういいじゃないか!
たとえネコであろうと発情期だろうと、智夜は智夜だ!
それにコレは俺のせいなんだから、俺が処理してやらなくちゃだよな…。

「…智夜、ごめんな…すぐに俺が楽にしてやるからな…」
「…ん、うん…」

智夜の頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。

「智夜、向こう向いて、俺の足の間に座って?」
「う、うん…」

智夜は俺が言った通り、素直に俺の足の間にちょこんと座った。
しっぽが目の前をフワフワと行き来する。
特に何も考えずにそのしっぽを掴むと、智夜の身体がビクリと震えた。

「もしかして、しっぽ、気持ちいいの?」
「…んっ…!」
「へぇ…」
「い、意地悪…」
「ごめんごめん、あんまりに智夜がカワイイから…」
「…っ…ん…」

智夜が何も答えないのをいいことに、しっぽを強めに握ってやる。
小さく喘いだ智夜に気をよくして、何度も握ったりはなしたりを繰り返していると、智夜に止められてしまった。
謝りながらも耳をはんだり、舐めたりすると、小さな喘ぎ声が聞え始めた。
その間、ゆっくりと身体を撫で回し、だんだんと手を下腹部に下ろしていく。

「んっ、やぁ、ま、まさや…!」
「やじゃないだろ?さっきまで自分で弄ってたじゃん…」
「そ、それは…!」

玄関からはだけたままだったそこは、萎えることなく震えていた。
俺が扱いたり先っぽを弄ったりしていると、すぐに硬度を増し始めた。

「智夜、気持ちいいか?」
「あぁ…っ、はっ…うん…っ」
「我慢せずに、出していいからな?」
「は、はずかし…よ…」
「何言ってんだ、俺たち双子だろ?恥ずかしいなんてこれっぽっちも…っぅ…」
「じゃぁ…雅夜も一緒に…」
「こ、こら…智夜…」

さっきまで目の前でフワフワしていたしっぽが急に消えたと思いきや、俺と智夜の間に入り込んで、俺のモノに触れる。
しっぽは、どうしたらそこまで器用な動きが出来るのかと疑いたくなるほどの動きで、俺のズボンの中に入り込んでくる。
そりゃ俺だって男だし、好きな人を目の前にしてるんだから勃ってはいるけど…。
まさかその好きな人に愛撫されるなんて思ってもなかったことで…まぁ、しっぽだけど…。
しかもこのしっぽ、卑怯なくらい気持ちいい…。
くそっ、負けてたまるか…!

「ひゃ!まさ、や…んぁ、あぁ…!」
「俺はいいから…智夜が先…」
「で、でも、ま、待ってぇ…はっ、ぁ、んんっ…!」

俺のを撫で回していたしっぽをズボンの中から無理矢理引きずり出し、強弱をつけて握ってやる。
もちろん、前の愛撫もそのままで、耳をあまがみしてやる。
智夜の口から、今まで以上に甘い声がではじめ、俺の手を握っている智夜の手からは、だんだんと力が抜けていく。

「ふぁ、や、だめ、もっ…っぅあ、ぁあ…!はっ、ぁ…っ…」
「…智夜…」

一度、智夜の手が強く俺の腕を握ると、智夜は俺の手の中で果てた。
ビクビクと身体を震わせながら、小さな喘ぎ声をあげている姿を見ていると、それだけで何だかすごい満たされる…。
次の瞬間、ふっと智夜の身体から力が抜け、俺に寄りかかってきた。

「智夜、大丈夫?」
「うん…」

智夜はまだ肩で息をしながらも、小さく頷いた。
その時、智夜に生えていた耳としっぽがポロリと落ち、サラサラと消えていってしまった。
それは、今までの時間がまるで魔法で作られた時間だったとでもいうように―――。


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